六甲山でハイキングしたら猪とキスができた

地球上で最も偉大な我が国を代表する、特別な才能を持つ作家として村上春樹 同志が挙げられる。神戸県灘区在住の方と話をしていた時に「そういえば村上春樹の地元って芦屋じゃん」と言ったら、まるで「あの子とはもうだめになったよ」と言うみたいにして首を振り「芦屋はマジで金持ちしかいない。コンクリートの見本市みたいな豪邸ばっかりだし、黒毛和牛の生肉をしゃぶってそうなオババがゴロゴロいて、ちょっと普通じゃないね」と言われた。

 

そこまで言われると、自分の見識を広げるために是非、芦屋に行ってみようかなと思ったのである。

 

梅田から阪急に乗って、芦屋川駅で降りた。梅田はまるでエロサイトの広告みたいな喧騒だったのだが、芦屋は筋金入りの清楚系美女みたいな雰囲気だった。のっけから、駅の構内に「善意の傘」が置いてあること自体、驚きである。駅の構内に貸し傘が置いてあるのである。

 

f:id:yayayatototo:20191021222858j:plain

僕の地元は大変治安が悪く、喧嘩する時の武器にするために傘を持ち歩く者や、銃殺する時に返り血を浴びないように傘を使う者も多く、家の外に出ると死ぬ可能性があり、まるでアフガニスタンの紛争地帯のような状況だった。(ちなみに、大学の傘立ては実質的な貸し傘入れである。60年代は傘立てにゲバ棒や豚の骨や火炎瓶が放り込んであったそうだ。50年間で大学生もかなり大人しくなった。まるで虎がバターになったみたいだ)

 

f:id:yayayatototo:20191021222836j:plain


 

 

それで、芦屋川駅を出ですぐのところに「東六甲ハイキングコース案内図」があって、それによると(いくつかのコースがあるのだが)、芦屋ロックガーデンコース(芦屋川駅→風吹岩→岡本駅)は6キロで2時間のコースだそうである。

 

「ハイキング」「6km2時間」という情報から僕はクロックスで行けるな。水は500mlで十分だろう。音楽でも聴きながら歩くか、と判断したのだが、これは大間違いだったのである。とくに、「ハイキング」の文言は、まるで金属探知機で発見できない地雷のようである。

 

芦屋川駅を出発して10分くらいまでは住宅地を歩く。この住宅地がまるで高級住宅のデパートみたいだった。コンクリートの無駄遣い、資本主義の象徴、飼い犬に大トロ一貫、六甲の天然水でウンコ流してる、日本を代表する高級住宅街である。

 

さらに10分ほど歩くと、住宅地を抜けて林の中に入る。緩やかな上り坂で道の周りに木が生えている。このような道を歩くのが、僕の想像していた「ハイキング」である。

 

しかしながら、僕のこのハイキングに対する美しい幻想はすぐに破壊されるのだ。この20分後、僕は険しい道を登り、まるで生まれたての小鹿のように足を震わせながら、クロックスを脱ぎ、リュックの中のスニーカーに履き替えるのである。

 

芦屋川駅から30分ほどの場所に、ロックガーデンがありそこはまさに地獄の入り口であった。ここから先はハイキングではない。シンプルに登山である。

 

f:id:yayayatototo:20191021222943j:plain


 

さて、このハイキングコースの所要時間は2時間で、ちょうど風吹岩がその折り返し地点である。だから、1時間歩いたところで風吹岩付近に到達していなければならないのだが、それもできない。ただ、分岐点状に風吹岩の方向を示す標識が立っているだけである。

 

僕は明らかにコースタイムから遅れている。僕はこのことが不安なのではない。

 

人間だから比べてしまうのは仕方ないよ。ただ、目指すゴールから逆算して必要なことができているか、いないか。そのことを考えるんだ。

 

僕が不安なのはまるで意地悪な姑のように執拗に現れる「クマ・イノシシに注意してください」という看板と日没の時間である。特に、秋になって優秀な拷問吏みたいに凶暴な野生動物が冬眠に備えて餌を探している時期である。しかも、注意喚起の看板はいたるところに設置されているのである。

 

さらに恐怖に輪を掛けたのが迫り来る日没である。コースタイムが2時間なのに対し、1時間以上歩いても折り返しが見えないのである。万が一、日が暮れてしまったら月明かりを頼りに歩くか、クマとイノシシに怯えながら野宿なのだが、水を飲み干してしまったので、垂らす小便も無いであろう。絶望である。

 

 

私は結果だけを求めてはいない。結果だけを求めていると、人は近道をしたがるものだ。近道した時真実を見失うかもしれない。やる気も次第に失せていく。大切なのは真実に向かおうとする意志だと思っている。向かおうとする意志さえあれば、いつかはたどり着くだろう?向かっているわけだからな。違うかい?

 

なんやかんやで、やっと風吹岩にたどり着いた。神戸ポートアイランド、大阪湾が一望できて、遠くの方にまるで棺桶を縦に置いたようにあべのハルカスが建っていた。本当に良い景色で100万ドルの価値があると思った。長崎の夜景よりもきっと高級であろう。

 

f:id:yayayatototo:20191021223016j:plain

 

岩の上であぐらをかいて座っていた、みうらじゅん高野山の仙人の中間みたいな男もいた。彼は遠くを見つめながら風に吹かれて夕日を浴びていた。伊丹空港摩耶山(まややまと読んで、馬鹿だと思われた。まやさんと読む)で夕日を眺めたことがあるのだが、山から大阪湾方面を眺めるのは、中毒性があってやめられない。僕は今、ベルサイユ宮殿に住んでいるのだが、先日、北野天満宮を内覧した。

 

この風吹岩がちょうど折り返し地点で、あとは下り道だった。芦屋は山と海がすぐそばにあって、大阪にも神戸にも遊びに行ける。それは高級住宅地になるであろう。