Farewell my university

人生はロールプレイングゲームだ。主人公は俺、ルールは日本国憲法、プレイタイムは80年だけど首をくくれば強制終了できる。で、俺は高校を卒業するときに以下の選択肢を与えられた。

 

A 大学・専門学校・浪人コース

 

B 就職コース

 

C 引きこもりニート無職家事見習い親に寄生コース

 

D 自殺コース

 

 

この中から僕はAを選んだ。自殺をするのは人生に絶望してからでいい。自分探しの旅に出たい、僕は今とは違う自分になりたいんだ、職業・旅人、上京して芸人を目指す、みたいなことを言って浪人しても良かった気がするけど。

 

ところが俺は大学に入ってから2ヶ月で退学すると決心した。この意味で僕の選択は間違っていたと言わざるを得ない。俺が大学に入ってから退学するまでを振り返ってみようと思う。

 

 

4月

 

ママと一緒に一人暮らしの準備をした。アパートを決めて、家具を揃えたり、引越しの費用で10万くらい飛んでいった。10万円。これは我が家にとって大金である。この金を捻出するために家族総出で血を売った。故郷から旅立つ時、僕は血と涙を流し、十円玉をしゃぶっていた。実家にいると親がちゃんと飯を食え、クロスはゴール前、球際に厳しく、などと絡んでくる。こういう雨で靴が濡れてしまうような煩わしさから解放されるんだと思うと、弾むような気持ちになると同時に、放り出されたような寂しさと不安が胸に浮かんでは消え、僕は地元のsun setを目に焼き付けていた。

 

確か入学式の前日に大学のガイダンスがあったはずだ。この時のホームかアウェイか分からず、ちょっと探りにいくような雰囲気はまだ覚えている。正直、このガイダンスは詰まらないか面白いかというより緊張してついていくだけ、みたいな感じだった気がする。

 

入学式はサボった。高校の卒業式も行かなかったし別に行かなくていいか、みたいな。ただこれは大学で友達を作るという点において失敗だったかも知れない。入学式に行くと何人か友達ができるらしい。結局僕は同じ学部で一人の友達もできずに退学することになる。

 

授業が始まった。大学の授業に期待していたかどうか、よく覚えていない。授業などは本を読めば分かる事柄をわざわざ口頭で説明しているだけのことで、真面目に聞く意味はないと思っている。高校の友達はもっと過激思想を抱いていた。まるで秘密協定を結ぶように真剣な口ぶりで「コーヒーゼリーは授業中に食べるのが一番美味しい」「授業など脳トレには何の役にも立たない。ポーカーをして智略を争ったほうがいい」と言っていた。

 

ただ、大学教授の話は面白い、みたいなことも伝聞していた。多分つまんないけど面白いといいなぁーって感じだったかな。

 

さて、実際のところ授業は本当につまらなかった。最初の一週間で、この退屈さは未曾有の経験であると悟った。詰まらないとか面白くないとか、そういう生易しいものではなく有害とか拷問とか、命を無駄にしていると表現するべきだと思う。

 

二週目でいよいよこの詰まらなさは本物だと思った。苦痛の根源である。大学の授業はストレス製造機に等しい。

 

3週目からAmazon prime video で映画を見るようになった。講義室にwi-fiが飛んでいて本当に良かった。wi-fiは命をつなぐホットラインだと思った。wi-fiが無ければ暴動が起きていただろう、ゲバ棒催涙ガスが嵐を呼んだだろう。wi-fiが運んできてくれるデーターだけが唯一の秩序なのだから。

 

俺には友達もいなかった。授業に出ているのに誰とも喋らない日も結構あった。こんなはずじゃないと思った。キャンパスには誘いかけるような日差しが降り注ぎ、僕以外の誰もが春を謳歌しているように見えた。僕は薄暗い場所に取り残されているような気持ちになった。次第に僕の心は大学からディタッチしていって、少しずつ、着実に退学に向かっていった。