派遣労働残酷日記

しばらく前の話なんだけど、ライブ会場の設営に派遣のバイトとして行ったことがある。ミュージシャンがギターとマイクを担いできて、壊れたラジオのようにぶっ続けで歌い続ける、みたいな路上ライブではない。スカスカのタッパーみたいなアリーナでライブするためには音響、舞台演出、照明の準備が必要である。

 

現場のヒエラルキーにおいて最上位に位置するのが会場設営を丸ごと引き受けている会社である。彼らは大阪でライブの仕事をした後に、幕張メッセに飛んでいく、みたいに日本中を飛び回っている。ただ、会場設営は労働集約的な業務で、トラックから荷物を降ろしたり、とりあえず物を運ぶ、など運動会の前の石拾いみたいな仕事をする人間が必要なのである。これは日本語が通じる人間であれば誰でもできる仕事である。マグロ解体士エキスパート検定の資格もいらない。肺活量が80代で、磨き上げたように頭が禿げた中高年だろうが、高校を中退して、2時間に一度マリファナを吸わないと壁に向かって突進を始める薬物乱用者だろうが、とりあえず日本語が通じればそれでいいのである。こういう雑用係みたいな人間は現地調達する方針みたいで、俺はそれに応募した。

 

仕事は本当に単純で、漢字を読んだり、マックでハンバーガーを注文する方が難しいくらいである。時給が1500だから、競走馬のように鞭でしごかれながら働いたり、バイトの人間が私語をしないように口にガムテープを貼られるとか、人民解放軍の訓練に勝るとも劣らない肉体労働を覚悟していた。でも何のことは無い。俺がサッカー部だった時にしていたサーキットトレーニングの方がよほど消耗する。半身浴みたいな肉体労働だった。

 

ちなみに、仕事をサボる方法はいくらでもある。バイトの人間が同時に50人くらい働くのだけれど一度きりの仕事だから、お互いの顔も名前もわからない。「ちょっと2人でこれ運んで」みたいに仕事を頼まれるわけだから、バイトの人間は設営会場の中に分散することになる。そうすると便所の個室に駆け込んで仕事をサボることが可能である。

 

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正直、便所でサボるくらいならまだ可愛いサボり方である。バイトが終わる前に点呼がある。万が一途中でおかえりした場合、雇用主にバレるとしたらこのタイミングなのだけれど、他の人間に返事をさせればいいのである。雇用主も顔と名前が一致していないはずなのでバレようが無い。これこそ大学生による史上最高のイノベーションと言われる誉れ高き「代返」の活用方法なのである。

 

というわけで、会場設営のバイトは時給も高くて、(良心の呵責に悶える覚悟があれば、或いは当人がサイコパスならば)サボれるのでかなり美味しいお仕事でした。ごちそうさまです。