令和最初の夏に伊丹空港で夜景を見よう

 

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僕は美しいものが好きだ。「美しい」とは、それだけで神に近い存在である。ここで、美しいものとして夜景が挙げられる。だからこそ僕は、神に少しでも接近するべく夜景を見る旅に出かけた。心が洗われるだろう、純粋な僕に女神が優しく微笑むだろう、夜空に輝く星たちが僕のために光を放つだろう、雲のように柔らかな愛だけが唯一の秩序になるだろう。

 

 

伊丹空港

 

日没の一時間くらい前に伊丹空港に到着した。僕は空港の中にあったローソンで夕飯を調達して便所でそれを食べた。僕は大学にいる時、1人で食堂に行くのが怖いから怯えたリスのように丸くなって便所で昼食を食べる癖がある。だからこの日も1人で食料を持って便所に直行した。濡れた肌のように暖かい便座が僕の冷えた心と尻を励ましてくれる、というのは嘘である。これは大きな声では言えないライフハックなのだけれど、便所の中にはほぼ確実にコンセントがある。だからスマホの充電をしながら夕飯を食べようと思った。

 

ただ、空港の中にはカフェもあるし、鉄板焼き、寿司、洋食といろんな飲食店が出店している。便所飯などというプライドと品格を捨てて、野に下ったような行いに嫌悪感を覚える紳士淑女の皆さんはぜひこちらを利用していただきたい。まぁ普通は便所でご飯なんか食べないんだけどね。

 

伊丹空港の展望デッキは入場無料である。建物の五階くらいの高さにある。飛行機の発着回数もそれなりに多くて、飛行機の勇姿を眺めて大空を舞うロマンをかみしめたい諸君は、大阪に行った暁にはこの空港に立ち寄ることをお勧めする。田舎の滑走路に雑草が生えたような飛行場だと、二時間に一度くらいしか飛行機の発着がない。それでも飛行機オタクの皆さんは、頭にハチマキを巻いてカメラのレンズに息を吹きかけながら地元の飛行場に向かうのである。まるで不良の息子に仕送りするような虚しさを禁じ得ない。

 

残念ながら曇っていて、この日は夕日があまり綺麗ではなかった。風が強くて少し寒かった。日没後、少しずつ黒が染みていくようにして空が暗くなってきた。東の方に、まるでマッチ箱を立てたような大阪市街のビルの群れが見える。ビルの周りだけが内発的に光を放っているように見えた。綺麗だと思った。不謹慎な例えで恐縮だが、東京大空襲の時、少し離れた場所から爆撃を受けている都心を見ると、真っ赤に燃え上がっていて(まさに燃え上がるような赤)とても綺麗なのだと書いてあった。なんとなくそれに近くて、大阪市街にだけ異様なほど光が密集している。

 

空港のデッキにいたのは観光客よりも仕事上がりのサラリーマンの方々だった。まるでその場所が2人だけの国であるかのようにいちゃつくカップルもいなかった。働いた後にこのデッキの景色を見てから家に帰るのは羨ましいと思った。僕はまたここの景色を見たいと思った。さて、それはいつになるのだろうか。

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