読書感想文×小説はエンタメだ

 

官僚たちの夏  城山三郎

 


高度経済成長期の通産省の話。閻魔大王の裁きのような、有無を言わせぬ人事と暴力的な激務、フィニッシュのない競馬のようにいつまでも続く昇進レースに耐えきれば、ご褒美として政策立案に関与できる、という印象。コアなファンに囲われたアイドルのように、この小説は一部界隈からは熱烈な支持を受けている。ということもあって、そこそこ面白いのだが、座右の書にするとか、何度も読み返したいという気持ちにはならなかった。

 


俺は例えば、東大卒・上場企業勤務の一途な男と結婚して「英語とピアノを習いたいの♡だからお小遣い頂戴☆」とおねだりして、その金をホストと競馬で溶かす女の話とか、ボケた金持ちのババアに偽物の宝石を売りつけて作った金を元手に、麻薬と武器の密輸商社を立ち上げる話のような、一般常識を逸脱した物語が好きだし、そういうのを求めているからだ。

 


ちなみに、俺は村上春樹が大好きなのだけれど、この小説は村上春樹的な小説的虚構、比喩、隠喩、結論を避けるような文体の対極として存在している気がした。

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永遠の0  百田尚樹

 


中学生の時友達から借りて読んで、それっきりだったのだけれど再会した。その時は戦争の虚しさを感じたのだが、零戦パイロットは棺桶に足を突っ込んだような危うい状態でも何とか生きようとしていて、ギリギリの戦いを演じている姿に胸キュンしたのを覚えている。サッカーで、なんとか敵のゴールをこじ開けようと獅子奮迅するアタッカーに似た趣がある。

 


さらに、特攻だけではなくて、大日本帝国の興亡、戦前の疲弊と貧しさ、前線にいた兵士の体験、復員した兵士の奮闘、忘れられた英霊の弔い、戦争指導部の無能、新聞社の闇、ニート問題とか、いろんなテーマが小説の中に盛り込んであって、百田尚樹の作家としての力量が化け物級である可能性がある。

 


小説の中に、日本軍の腰の引けた戦術についての記述があった。もう一歩踏み込んでいれば敵をぶちのめす事ができたのに、指揮官がビビって前線から撤退した戦いが何度かあったそうである。少し前に「お前は保守的な性格で常にリスクヘッジのことを考えているな。だからボロ負けすることはないが、大きく勝つこともできないんだよ。くそチキン野郎。一昨日来やがれ」と言われたのだが、何人かの日本軍の情け無い指揮官を見て、勇敢に戦う必要性を感じました。