怠惰
最後の家族 written by Ryu Murakami
会社の業績が傾いて給料が下がりリストラの可能性もある父親、専業主婦の母親、引きこもりの兄(21)、JKの妹という家族の話。
父親の年収が400万まで下がって、貯金は減り続ける。その上住宅ローンの返済と妹の大学進学にも金が必要で、家計はまるで押しつぶされたように逼迫していて胸が痛んだ。
日本はゆっくりと衰退しているから(高度経済成長期とは違い)所得の大幅な上昇は望めない。
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賃金は上がらないし、大企業でさえも倒産やリストラの可能性もある。よって「いい学校→いい会社=いい人生」みたいなライフプラン(30年前はこれが通用したのか知らないけど)が崩壊した。
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しかし、日本全体がそれに変わるライフプランを示せていないから、個人は露頭に迷う。
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自分で決めたことをやるようにすれば幸せになれるんじゃないかという救いを持たせてこの小説は終わった。
華麗なる一族 (上巻)
written by Toyoko Yamasaki
銀行と鉄鋼業を経営する一族の話。「最後の家族」はヒラ社員・庶民の貧乏が故の苦悩だったけれど、こちらは上級階級が故の苦悩があった。閨閥の維持、発展のために親が結婚の相手を決めるとか、ライバルの銀行との競り合いで疲弊したり、頭取に経営の才能がないと会社が傾いてしまう。
大阪万博開催予定地の土地買収費用が吹田近辺の農家に振り込まれる!それを預金してもらおう!大作戦に高度経済成長期の勢いと泥臭さを感じ、年功序列、終身雇用、家長制度、企業戦士、お見合い結婚など、前世代的な不文律が通奏低音のように響いていた(ように感じる)。
御巣鷹山事故を報道した北関東新聞社の話。後半にかけてお涙頂戴になってくるから前半だけ読めばこの本の醍醐味が味わえるはずだ。新聞社内の政治的取引を垣間見れる。社内の右派と左派で揉めて、紙面構成を巡る怒鳴り合い、原稿の締め切り、重要人物にまとわりつくように張り付いての取材、取材についての命令を聞かず、我流で取材しようとする部下、そういうのが全て企業で働く煩わしさを象徴している気がした。