Never Let Me Go

6月

 

 

僕はまだ君のことが好きでたまに思い出す。ほらわかるだろう?君が一緒にいてくれたら楽しいのにって考えてしまうんだ。

 

確かに大学は退屈さ。ガラクタを売りつける通販番組のような授業、カエルの鳴き声みたいな話をしてる奴ら、ゴリラの愛娘みたいなブス、俺はここにきたことを後悔したよ。俺は何をしたかったんだろうって。でも親父とお袋が大学に行かせてくれたんだ。卒業しなきゃいけないって思うだろう?でもね、俺は思うんだよ。柔らかい粉雪みたいに純粋だけど一緒にいても楽しめない女の子と、悪魔のように意地悪だけど絶対に退屈しない女の子、どっちと付き合いたい?そう、面白くない奴は本当に面白くないんだ。

 

6月までは大学を卒業して見せようという気概があった。1年生の1学期に必修は20単位あった。ただ、俺のストレス耐性ではどう考えても必修科目を全て回収することはできないと思った。よって俺は「肉を切らせて骨を断つ作戦」を実行しようと試みた。

 

結局のところ、4年間で128単位集めれば卒業できるのである。つまり1学期あたり16単位取ればいいのだ。一週間で8コマ、一日1コマか2コマ、これなら卒業できそうだと思った。1年生の必修科目だろうがなんだろうが4年間かけて回収すれば卒業できるのである。1年の1学期も16単位取るのを目標にして他の科目は諦めようと思った。

 

 

しかし、次第にそれも面倒になってきてしまう。そもそも、大学に課金する必然性を疑うようなった。俺の家は貧乏である。父親は高校を卒業した後、新潟の自動車部品を作る工場に就職した。しかしリーマン・ショックのあおりを受けてリストラを喰らい、今はフィリピンの自動車工場で働いている。年収は100万ペソである。母親は書道教室の先生をしている。しかし「利き手を使わなければ行書になる」「心頭滅却すれば書もまた華麗」「壺を撫でれば心」などと意味不明な指導を繰り返すばかりで、廃業寸前であるらしい。なけなしの金を大学に払いたくなかった。

 

ただ大学に課金してもマクロ的な傾向を考えた場合、十分に合理的である。高卒と大卒では生涯収入に違いがあるからだ。短期的な支出に目が眩み、長期的な収入を犠牲にしてしまう可能性がある。

 

厚生労働省の賃金に関する統計データを参考にされたい。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2017/index.html

 

以下のような調査結果もある。大学を卒業しておいたほうが有利であるらしい。

 

 

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)

日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち (光文社新書)

 

 

 

学力と階層 (朝日文庫)

学力と階層 (朝日文庫)

 

 

 

あと、大学生はニートじゃないけど好きなことができる、みたいなところもあるし、大学もそんなに悪い場所じゃないと思う。

 

しかし、大学の授業料は1年間で50万である。これは専門書が一冊三千円だとして150冊分である。面白くない授業に課金するより本に課金したほうがいいと思った。実家暮らしなら大学に行かないでニートしても(少なくとも金銭的には)支障はないだろう。何より、退学すれば面白くない空間から脱出できるのだ。

 

 

授業をサボるようなると他の人間から「お前退学すんの?」みたいなことを聞かれる。俺様のことが嫌いな奴はさっさと出て行け、最初から入ってなかった、裏口から出て行け、ってほとんど追い出そうとしていた。

 

でもたまに頭のいい人がいて「2年までここにいて転学すれば?」って言われた。これが一番まともでリスクも低い選択だろう。考えれば考えるほど的を射たソリューションである。 2年間もこの大学に通い続けるのは無理だと思ったけれど。

 

 

6月29日

 

 

俺は退学しようと決心した日を覚えている。2018 FIFA World Cup Russia 日本対ポーランドの翌日である。徹夜でサッカーを見て、大学の図書館のソファーで授業が始まるまで寝ようと思った。でも寝過ごしてしまって、起きたら授業はとっくに終わっている時間だった。俺はその時に大学など辞めてしまえと思った。サッカーより面白くない授業に課金して何の意味があるのだろう。俺は実質的な意味はないと思った。

 

あの時同じ花を見て美しいといった2人の心がもう二度と通わないように、俺はこの日以来大学に行っていない。