フジロック2019参戦レポート 「夜の踊り子」

これの続き

 

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フジロック前夜祭

 

前夜祭は

 

抽選会

 

花火

 

レッドマーキーでライブ

 

の順に進行する。

 

ちなみに前夜祭は入場無料だよ。

 

抽選会

 

入場ゲートで抽選券を渡される。抽選券に番号が振ってあって、その番号を呼ばれた奴が豪華景品を貰える。景品はトラック一杯の鮎(水上産)、産地直送・苗場の雪10㌔、出演アーティストとの1日デート券などがある。というのは嘘で、会場内の飲食店で使えるクーポン、次年度フジロックの入場券、苗場プリンスホテルペア宿泊券、タワーレコード商品券とかそんな感じ。ネタで「祝・苗場プリンスホテル正社員採用」「越後湯沢のリゾートマンション一室(実際10万くらいで売りに出ている)」「タンクローリー10杯分の新潟地酒」とかも出して欲しかったな。

 

正直、当たる確率はかなり低い。だから最初から「そんなもんいらねぇ」って諦めている人もいて、「x番の方いらっしゃいますかー」というアナウンスがあっても本人が現れないから再抽選になった景品もいくつかあった。僕もあわよくば、と期待していたのだけれど、この夢は叶わなかった。悔しくて抽選券ををまるで糸みたいに細く切って、ラーメンに混ぜて食った。

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前夜祭をしている


 

花火

 

山が吹っ飛ぶくらい大量の花火が打ち上がる。もはや暴力的な爆音が鳴り響き、山の野生動物が気絶するくらいで、動物保護団体は抗議声明を発している、というのは嘘で、実際はホームセンターで買えるような花火10袋分くらいのショボさである。ただこの花火を見てフジロック本番に向けて士気を高め、気合いと根性で3days を乗り切ろうと決意を固めるものも多いようである。

 

タイムテーブルを見ればわかるのだが、午前11時くらいから夜中の4時くらいまでフェスが続くのである。これを乗り切るには相当な体力が必要であることは想像に難くない。野外会場なので、鉄板で焼かれているように暑い日もあれば、滝のような雨が降り注ぐ日もある(今年は台風が接近してきて大雨になった)。「日に日にコンディションが悪くなる」「フジロックの期間中、絶対に水を飲まない。酒を飲むからだ」「無事では帰れない場所に来た」という話し声が聞こえてくる(マジで)。フジロック参戦者の魂に火をつける意味でも、花火を打ち上げることの意味は大きいはずだ。あるいは、そのうち生贄を捧げるようになるかもしれない。

 

レッドマーキーでのライブ

 

花火→レッドマーキーでライブの流れは毎年恒例らしい。フジロックには9つのステージがある(そこらじゅうにフラッシュモブみたいに演奏や大道芸を始める人がいるのだが、公式のステージは9つである)。しかし屋根付きの屋内ステージはレッドマーキー1つしかない。実際は金持ちの掘っ建て小屋みたいな臨時の建物で、西武ドームみたいに壁面と屋根が離れている。ただライブハウスみたいにはなってる。

 

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大体こんな感じ

前夜祭には数組のアーティストが登場するのだが、いきなりレッド ホット チリ ペッパーズ(レッチリ)が登場したのは驚きである。先頭打者ホームランみたいである。彼らが登場した瞬間、観客の唸るような叫び声と壊れたスピーカーみたいな黄色い声援が会場に響き渡り、瞬間湯沸かし器みたいに会場の熱量がブチ上がった。あっという間にレッチリのステージが終わった。まるで噴水を逆さまにしたような激しい雨が降っていたのだが、レッチリの演奏が終わるまでそのことに気がつかなかった。会場の熱気が雨を跳ね返していたのかもしれない。

 

続く↓

フジロック2019参戦レポート「夢が始まったぞ」 - 大和さまのブログ




フジロック2019参戦レポート「山猿の巣」

僕は今、日本列島を舞台に借金取りと鬼ごっこをしている。金を借りるとき姉(幻の花のように美しい)の使用済みパンティ1万枚を担保に入れたので、僕が債務不履行を起こした場合、メルカリとヤフオクに大量のパンティが出品されるだろう、というのは嘘で、担保もクソもなく金を借りてその返済のために働かざるを得ないのが俺様の現状である。

 

住み込みのバイトだと生活の固定費を下げることができる上に、仕事以外出来ることがない「限りなく刑務所に近いシャバ」みたいな環境で構造的に金を使う場所がないので、まるで冬眠前のリスみたいに金が溜まる溜まる。というわけで最近は住み込みのバイトを転戦する旅芸人みたいになってるんだけど、最近はフジロック3days の臨時バイトをした。バイトが終わった後は従業員パスを貰えるからフジロックを気がすむまで堪能できる。で、フジロックの3日間通しチケットは4万円くらいするから、実質賃金は10万くらいになると思う。

 

汎用型ロボットみたいな仕事を求められる非人間的なバイトだったのだが、フジロックは「ちんちんを隠しておけば後は何をしても自由」みたいなカオスで楽しかった。

 

以下フジロックの感想文。

 

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本番の2日前

 

バイト組はこの日に会場入りだった。従業員の寮がまるでしばらく前に廃校になった小学校みたいに貧相で、建物はイカ墨がこびりついたまな板みたいに黒く汚れていた。それが山の中にあるから半島の北側の社会主義国の炭鉱労働者の強制収容所みたいに思えた。

 

リハーサルでもやっていないかなぁとワクワクしながら会場の周りをブラブラした。会場設営や飲食店のテントの準備をしている人たちは沢山いたけど、リハとかスペクタクルな出来事は無かった。

 

冬はスキー場になる場所が会場だから、ステージは山を切り開いた場所にある。それでも周りは山しかなくて、猿やゴリラの研究者が集まってきそうな風景である。こんな野生動物のデパートみたいな場所でやるロックフェスティバルに果たして人間が集まるのだろうかと少し疑問に思った。13万人の集客を見込んでいるそうである。

 

本番前日(前夜祭)

 

まるで樹液に群がるカブトムシみたいに人間がゾロゾロと集まってきた。スキー場のゲレンデの一部を来場者に向けて、キャンプ場として解放していた。ちなみに、キャンプ場は冬季の集客が課題になることが多くて、スキー場は夏季になると閉鎖せざるを得ない。ただ、冬にスキー場の営業をして、夏はキャンプ場の営業をすれば(机上の計算だけど)1年中仕事ができるのではないかと思った。

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前夜祭は午後7時から始まるのだが、その前から会場はまるで高校の文化祭のように盛り上がっていた。本番はまるで合戦みたいな雰囲気になるのではないかと思う。

 

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会津若松の思い出もぜひご覧ください

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神戸旅行1days~シェアサイクルの祈り~

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昔々、ガリガリに痩せた力士みたいに弱っちい女とデートしたことがある。一緒に3分くらい歩いていると「疲れたぁ♡」と言い始めて、こいつウルトラマンの真似してるのかな?と思ったんだけど、どんどん顔が濡れたアンパンマンみたいに元気を失っていく。台所と玄関くらいの距離でしかないのに「こんなに歩いたから疲れたのよ」と言われて「自転車使ってるの?」と聞いた。女は「ずっと家でゲームしてる。自転車の乗り方がわからないの」と言って、シャワーでも浴びるようにして大量の日焼け止めクリームを全身に塗りつけ、両手に日傘を持って暑いとかなんとか文句を言い始めた。俺は騙されたと思って全身に怒りが込み上げてきたから、室伏広治がハンマーを投げるみたいにしてその女をぶん投げてやった。

さて、自転車に乗れない女の子もいるみたいなんだけど、神戸市内の旅行には自転車のライドシェアが便利だった。

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神戸海洋博物館を出て、メリケンパークにシェア自転車が置いてあった。神戸市内の観光地(中華街とか異人館)は密集しているから移動には自転車が便利だと思ってこれを借りた。本当は歩こうと思っていたのだけれど、体力を消耗して途中でバテて、動けなくなったら旅行にならないと思って自転車に課金した。確か昼食代と同じくらいの値段だった。この瞬間、僕の昼飯は神戸東遊園地の木の葉を食べるしかなくなった。貧乏は惨めである。

しかし自転車を借りたのは正解だった。

⑴ 電動自転車だから風に押されているように加速できる

⑵ 神戸は坂道が多く、特に電動自転車が威力を発揮する

⑶ バスを待つ必要がない

⑷ 少なくとも歩くよりは楽

特に⑴と⑵において自転車のメリットを享受できた。

僕はそれまで電動自転車に乗ったことがなかった。何事も初体験は衝撃的なのだけれど、特に電動自転車の威力は絶筆に尽くしがたいものがある。停止した状態から、一漕ぎした瞬間にグッと背中を押されたように、モーターがアシストしてくれるのである。急な上り坂でもそれは同じである。並レベルで庶民向けの自転車で坂を登る時、身体中から汗が止まらなくなって、坂を登り切った後にシャツを絞ると汗の水溜りができるのだけれど、電動自転車で坂を登ると、モーターのアシストのおかげでとても楽に登ることができる。モーターは学歴・年齢・経歴・性別に関係なく万人に優しい。まるで神のような存在である。この日以降、僕はモーターを額縁に入れて部屋に飾り、感謝と畏敬の念を込めて島津製作所・紫野工場の方を向いて一日3回礼拝している。

 

神戸旅行1days 湾岸エリアを中心に

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神戸海洋博物館

 

「海洋博物館」というのだからホルマリン漬けの深海魚や3万年前の魚の魚影の展示が連想されるのだけれど、それは違う。割り箸をくっつけただけみたいに見える弥生時代の船、中世の海賊船、タンカー、軍艦など、古今東西の船の展示があった。その中でも最も美しいと感じたのは海賊船である。とにかく勝つ、ぶちのめす、根性、気合い、発射、という勇猛な姿勢に胸キュンしてしまった。リングの外からヤジを飛ばすデブよりも、利き腕を縛られて、顔が腐ったトマトみたいになるまでぶん殴られても、戦闘意欲をもって戦う奴の方がかっこいいのである。武力の権化のような海賊船が醸す不退転の決意に感化され、僕はその日からいつも船首像・ゼルダを背中に縛り付けている(おかげでギックリ腰になった)。

 

同じ建物の中に川崎重工の過去の実績を広告しているエリアがあった。戦前の「特急あじあ号」に始まり、戦闘機、甲子園の銀傘、ヘリコプター、新幹線、発電所を拵えたんだぞ、という年寄りの自慢話みたいなパネル、巨大なタービン、それから「ねぇこれ買ってよー(パパ活女子)」とおねだりをするようにバイクが置いてあった。

 

僕の友達にバイクを愛する人がいて「死と隣り合わせというスリルに依存していたい」「速い、って男らしさだ」「いつかバイクで空を飛ぶ」など、数々の名言を残した者がいる。その彼は川崎製のバイクに乗っている。展示品のバイクに跨って、自分が風を切り裂くように駆けるところを想像しただけでバイクが欲しくなり、とりあえずアコムで金を借りた。

 

神戸海洋博物館は船の模型、港湾の商業的機能、川崎重工の技術など見所の多い施設だった。この博物館の向かい側にまるで金目鯛をひねり上げたような建物がる。巷では「神戸ポートタワー」と呼ばれているらしい。神戸市役所展望台は無料で登れると知っていたのでわざわざここには行かない。次に向かったのは、神戸税関広報展示室である。

 

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神戸税関広報展示室

 

入場料無料である。ここは三宮駅メリケンパークの通り道にあって、軽い気持ちで立ち寄ってみた。悪徳密輸商社がこんな物(例えば、麻薬、鉄砲、象牙、虎革のベスト、象の足)を持ち込もうとしましたが我々が食い止めましたよ、という展示品が多かった。

 

この中でも特に印象に残っているのは覚せい剤が高価なことである。1994年、北朝鮮から覚せい剤が持ち込まれて、その価格は100キロで60億円だったそうだ。なんという高値だろう。不謹慎な例えだが、体重が68キログラムのサッカー選手、ネイマールの年俸は49億円だそうだ。理論上、ネイマールに100キロの覚せい剤を引き渡せば、彼を1年2ヶ月雇えるのである。

 

さらに覚せい剤は1キロ6千万円である。プロテインの粉は1キロ二千円で、(安い)塩に至っては1キロ五十円であった。同じ粉なのに水鉄砲と水素爆弾くらい価格的破壊力の差がある。僕が税務官だったら、副業として税関で差し押さえた覚せい剤をヤバそうな組織に流して、金を稼ぐだろう。あるいは、密輸の手助けをして手数料を稼ぐだろう。これを「マネタイズ」というのである。

 

 

 

 

派遣労働残酷日記

しばらく前の話なんだけど、ライブ会場の設営に派遣のバイトとして行ったことがある。ミュージシャンがギターとマイクを担いできて、壊れたラジオのようにぶっ続けで歌い続ける、みたいな路上ライブではない。スカスカのタッパーみたいなアリーナでライブするためには音響、舞台演出、照明の準備が必要である。

 

現場のヒエラルキーにおいて最上位に位置するのが会場設営を丸ごと引き受けている会社である。彼らは大阪でライブの仕事をした後に、幕張メッセに飛んでいく、みたいに日本中を飛び回っている。ただ、会場設営は労働集約的な業務で、トラックから荷物を降ろしたり、とりあえず物を運ぶ、など運動会の前の石拾いみたいな仕事をする人間が必要なのである。これは日本語が通じる人間であれば誰でもできる仕事である。マグロ解体士エキスパート検定の資格もいらない。肺活量が80代で、磨き上げたように頭が禿げた中高年だろうが、高校を中退して、2時間に一度マリファナを吸わないと壁に向かって突進を始める薬物乱用者だろうが、とりあえず日本語が通じればそれでいいのである。こういう雑用係みたいな人間は現地調達する方針みたいで、俺はそれに応募した。

 

仕事は本当に単純で、漢字を読んだり、マックでハンバーガーを注文する方が難しいくらいである。時給が1500だから、競走馬のように鞭でしごかれながら働いたり、バイトの人間が私語をしないように口にガムテープを貼られるとか、人民解放軍の訓練に勝るとも劣らない肉体労働を覚悟していた。でも何のことは無い。俺がサッカー部だった時にしていたサーキットトレーニングの方がよほど消耗する。半身浴みたいな肉体労働だった。

 

ちなみに、仕事をサボる方法はいくらでもある。バイトの人間が同時に50人くらい働くのだけれど一度きりの仕事だから、お互いの顔も名前もわからない。「ちょっと2人でこれ運んで」みたいに仕事を頼まれるわけだから、バイトの人間は設営会場の中に分散することになる。そうすると便所の個室に駆け込んで仕事をサボることが可能である。

 

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正直、便所でサボるくらいならまだ可愛いサボり方である。バイトが終わる前に点呼がある。万が一途中でおかえりした場合、雇用主にバレるとしたらこのタイミングなのだけれど、他の人間に返事をさせればいいのである。雇用主も顔と名前が一致していないはずなのでバレようが無い。これこそ大学生による史上最高のイノベーションと言われる誉れ高き「代返」の活用方法なのである。

 

というわけで、会場設営のバイトは時給も高くて、(良心の呵責に悶える覚悟があれば、或いは当人がサイコパスならば)サボれるのでかなり美味しいお仕事でした。ごちそうさまです。

鶴舞う形の鶴ヶ城

高速バスのトランジェントで4時間ほど会津若松で暇ができたのでその辺をフラフラした。会津若松といえば、俺が小学校の修学旅行で訪れた思い出の地である。遠い季節の思い出に郷愁を馳せているうちに、僕は過ぎ去りし日々に置き忘れた「ミュージシャンになる」という夢を思い出して涙がこぼれた。僕は地面に膝をつき、悔しさを絞り出すようにして拳を握りしめて、1人でも傷ついた夢を取り戻そうと決意した。というのは嘘で、修学旅行に関して、特別な思い出は特にないのが正直なところである。

 

まずは鶴ヶ城に向かった。城と言っても、今建っているのは城の形をした1665年に復元された鉄筋コンクリートの建物で、ただ特殊な形をした展望台・博物館と実質的には同じである。3階までが鶴ヶ城のクロニクルみたいになっていて、4階が会津の偉人紹介、5階が展望台である。

 

小学校の修学旅行でこの鶴ヶ城に来たことは覚えている。当時の俺は野生動物と同じ位の知性で生きていた。だから城内の展示品を見て、なんでも鑑定団に出して見やがれ、年寄りの趣味を小学生に見せつけて偉そうにするな、昔の城主がそんなに高級か、そいつはもう死んでる、と思っていた。ただ、当時の友達の何人かは興味深そうに展示品を見つめていた。今思えばこれが教養の差である。俺は「竜馬がゆく」を読んでやっと明治維新の概要を理解したのだが、賢い小学生は江戸期における武将の相関関係や政治的力学を把握している。僕は自分の無知を恥じて、反省の念を込め、天守閣から飛び降りようかと思ったが公共の福祉を考えて遠慮した。

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天守閣のてっぺんが展望台になっている。会津は盆地で、周りの山の影が存在感がある幽霊みたいにくっきり見えた。会津の街並みは、会津若松駅の周りに干からびたモヤシのようなビルがいくつか建っているだけで、他は低層の建物が多い。通信制限を喰らったスマホのように身体と頭の働きが鈍くなった年寄り向けの景色である。時間をスロー再生しているような長閑さがあって、早く年寄りになりたいと思った。

 

城内にみやげ屋さんがあった。赤べこ、くるみ餅、喜多方ラーメンなど、主張がない国会議員のように無害で個性を欠いた商品が並ぶ中で、燦然と輝くのが白虎刀である。僕はこの白虎刀を見た時、遠い昔に切り落としたおちんちんが突然生えてきたような郷愁と感動を覚えた。男子小学生にとって、この白虎刀こそが根性の証明であり、伸びるチン子と同じロマンが宿るのである。親の反対や実用性など女みたいな計算をしている奴は男の風上にも置けないチキン野郎である、みたいな雰囲気になって、買った白虎刀の本数がステータスに直結するのだ。修学旅行の小遣いを全て白虎刀に投下して、武功を立てた猛者もいたはずである。

読書感想文×小説はエンタメだ

 

官僚たちの夏  城山三郎

 


高度経済成長期の通産省の話。閻魔大王の裁きのような、有無を言わせぬ人事と暴力的な激務、フィニッシュのない競馬のようにいつまでも続く昇進レースに耐えきれば、ご褒美として政策立案に関与できる、という印象。コアなファンに囲われたアイドルのように、この小説は一部界隈からは熱烈な支持を受けている。ということもあって、そこそこ面白いのだが、座右の書にするとか、何度も読み返したいという気持ちにはならなかった。

 


俺は例えば、東大卒・上場企業勤務の一途な男と結婚して「英語とピアノを習いたいの♡だからお小遣い頂戴☆」とおねだりして、その金をホストと競馬で溶かす女の話とか、ボケた金持ちのババアに偽物の宝石を売りつけて作った金を元手に、麻薬と武器の密輸商社を立ち上げる話のような、一般常識を逸脱した物語が好きだし、そういうのを求めているからだ。

 


ちなみに、俺は村上春樹が大好きなのだけれど、この小説は村上春樹的な小説的虚構、比喩、隠喩、結論を避けるような文体の対極として存在している気がした。

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永遠の0  百田尚樹

 


中学生の時友達から借りて読んで、それっきりだったのだけれど再会した。その時は戦争の虚しさを感じたのだが、零戦パイロットは棺桶に足を突っ込んだような危うい状態でも何とか生きようとしていて、ギリギリの戦いを演じている姿に胸キュンしたのを覚えている。サッカーで、なんとか敵のゴールをこじ開けようと獅子奮迅するアタッカーに似た趣がある。

 


さらに、特攻だけではなくて、大日本帝国の興亡、戦前の疲弊と貧しさ、前線にいた兵士の体験、復員した兵士の奮闘、忘れられた英霊の弔い、戦争指導部の無能、新聞社の闇、ニート問題とか、いろんなテーマが小説の中に盛り込んであって、百田尚樹の作家としての力量が化け物級である可能性がある。

 


小説の中に、日本軍の腰の引けた戦術についての記述があった。もう一歩踏み込んでいれば敵をぶちのめす事ができたのに、指揮官がビビって前線から撤退した戦いが何度かあったそうである。少し前に「お前は保守的な性格で常にリスクヘッジのことを考えているな。だからボロ負けすることはないが、大きく勝つこともできないんだよ。くそチキン野郎。一昨日来やがれ」と言われたのだが、何人かの日本軍の情け無い指揮官を見て、勇敢に戦う必要性を感じました。